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大人の絵画鑑賞としての対話型鑑賞(≒VTS)を考える。(イントロ)

大人の絵画鑑賞としての対話型鑑賞(≒VTS)を考える。(イントロ編)

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《対話型(アート)鑑賞》(≒ VTS : Visual Thinking Strategy)

最近のアート鑑賞の分野では、ビジネス x 対話型鑑賞がブームになっています。

これにはビジネスの世界でアートの持つ力=イノベーション力(詰まった状況を打開する革新力)が高く評価されつつあることが背景にあります。逆に言えば、それだけ状況が詰まって、予測不能の状況にいるということです。

こういう状況をVUCA(ヴーカ)というらしいです。

VUCA(ヴーカ)とは?

VUCA、Volatility(移り気)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑さ)、Ambiguity(曖昧さ)という4つの単語の頭文字からとった造語なんですね。

要するに、今の時代は不確実で不安定で複雑で曖昧模糊と移り気な、すなわち《予測不能な時代》だと言うことです。まったくそうですよね、何が起こるかわからない。

私のVUCA激烈経験

手前ごとで恐縮ですが、私も順調に準備がすすんでいたイタリアの画家ジョルジョ=モランティの展覧会が東日本大震災というまったく想定外の事態の勃発により、《幻のモランディ展》となってしまったという展覧会プロデューサーとしてのあまりにも苦い経験をしました。

それまでの30年にわたる展覧会人生で、展覧会ポスターなどのメインヴィジュアルになっている作品が同じ時期の他の展覧会に貸し出されていることが発覚したり(いわゆるローン作品のダブル・ブッキング)、展覧会のオープニングが近づいた時点でコレクションのオーナーの家族が作品の移動に猛反対を始めたり(相続がらみ)、ある膨大なコレクションの実質的オーナーと彼が設立したそのコレクションを運営する財団の理事との係争に巻き込まれたり、現代美術巨匠の代表作に使われていた本物の稲穂が検疫にひっかかるということで大慌てになったり、これはほんとにヤバイな、この展覧会企画はポシャるかも知れない、と腹をくくったことは何度もありましたが、それでも幸いなことに、それらの障害はなんとか乗り越えることができました。

しかし、2011年3月11日だけは別でした。

アート型経営

話がそれましたが、アートの力を借りた経営の有効性はアップルとかユニクロとかCMを見ただけで実感できます。調子のいい企業のCMには経営にアートが活用されている感じがプンプンしています。

アートの世界では昔から、「どんな作品を創造したいのか、そのヴィジョンがまず大事、それに必要な技術は後からいくらでもついてくる」と言われてきました。たしかに、作品の確固としたイメージがなければ、どんなに技術があったって、何もできませんよね。

アートの推進力

ビジネスプロパーな話とはすこし分野が違いますが、アートによる町おこし、村おこし、地域おこしはずいぶん前から実践されています。有名な直島プロジェクトや越後妻有アートトリエンナーレを例に出すまでもなく、規模の大小は別にして多くの地方でアートによる地域の活性化の取り組みが盛んです。みなさんがおすまいの地域でも「〜アートフェスティバル」とか「〜アート月間」というアートイベントが開催されているのではないでしょうか?

アートがもつプロジェクト推進力が現実に適用されていますね。

対話型鑑賞(≒VTS) ブーム

ところで、昨今のビジネスの分野での対話型鑑賞ブームはそれとは少し違います。もっと個人のレベルで、アートの対話型鑑賞によって、現代のビジネスパーソンに必須と思われる能力を鍛えられますよ〜!というものです。

その能力というのは、従来の合理性最優先の思考能力ではなく、

《(正しいこと、真理を見抜く)直感力》、《観察力》、《問題発見力》、《判断力》、《問題解決力》、《言語化能力》、《傾聴力》、《コミュニケーション力》などです。

《世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?》山口周(著)がブームの火つけ役?

このブームの火付け役となったのは、なんといっても山口周さんの《世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?》(光文社)という本だと思いますが、書店に行けば、この本のほかにも、《エグゼクティブは美術館に集う》とか《なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館にいくのか?》などなど、刺激的なタイトルの本が目白押しです。美術館に行かないと世界のビジネスの潮流から取り残されてしまうという焦燥感に駆られてしまいそうです。

《世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?》の内容について

この本はベストセラーになるだけあって、論旨明快で説得力があり、お薦めです。

ただ、あくまでも「閉塞状況下のビジネス社会ーいやもっと広く現代でいいでしょうーにおいてアートの力が救世主になり得る」ということを論理的に説明してくれる本、すなわちアートあるいはアート鑑賞の効能を論じた本であって、アート鑑賞そのものについてあれこれと教えてくれる本ではないことはご承知おきください。

では、7つの章で構成されるこの本の1〜6章までの論旨を私なりに超要約してみますね。

1〜6章の主旨を3点に超要約する

1.VUCA(ヴーカ)的な状況で変動要因の多い現代のビジネス世界では、従来の科学的、論理的思考による経営判断は解決にならない場合が多い。

2.おまけに、みんなが同じ科学的、論理的な情報スキルを用いて結論することによって「正解のコモディティ化」がおきる。「正解のコモディ化」というと難しいのですが、要はみんな似たり寄ったりの結論になるということです。

3.みんなが同じ経営判断をしてしまう中で、差別化して生き残るには、これが正しいという直感を信じて、感性と論理を統合したまさにアート的な経営判断をするしかない。

実際、アップルやユニクロなどの例を思うとなるほどそうだという気がしてきます。ZOZOの前澤社長なんかもそうでしょうね。

ところで、この本は7つの章構成ですが、1〜6章までは上の論旨に沿ったことをいろいろな側面から論じています。

上掲書の7章目(最終章)にあるVTS(≒対話型鑑賞)の説明が注目された?

そして、第7章《どう「美意識」を鍛えるか?》になって、VTSについての説明があります。それも「哲学に親しむ」とか「文学を読む」など10個以上ある小見出しのひとつ(VTSで「見る力」を鍛える)として紹介されているに過ぎません。ですが、それまでの1〜6章で語られていることに現代性や説得力があるので、その具体的な解決策、方法論としてもっとも目新しいVTSに注目が集まったのでしょうね。

さて、ここまでが《大人の絵画鑑賞としての対話型鑑賞を考える》のイントロ編です。

次回はいよいよ(?)大人の対話型鑑賞(≒VTS)についての私の考えをお話したいと思います。

※すでに気づいた方もいると思いますが、対話型鑑賞=VTS(完全イコール)ではなくて対話型≒VTS(ニアリイイコール、大体同じ、ということは微妙に違う!)と標記していることについてもご説明しますね!

では、次回をお楽しみに。

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