第11回《〜これまで誰も教えてくれなかった〜『絵画鑑賞入門講座』》は2015年3月15日に開催されました。
テーマは:ティツィアーとヴェネツィア派
私自身が企画に従事した《ヴェネツィア派のきらめき》展(2007年)での経験談などをお話しながら大いに盛り上がりました。
《ヴェネツィア派のきらめき》展の図録表紙です。
メインヴィジュアルはドーリアパンフィーリ美術館所蔵の《洗礼者ヨハネの首を持つサロメ》
ティツィアーノの傑作です。
この展覧会の調査交渉では何度もヴェネツィアに赴きました。
カナル・グランデとサンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会。懐かしい!
想い出はそのくらいにして。。。
今回の講座のディスカッション特集はティツィアーノが何枚も描いている《マグダラのマリア》の比較鑑賞です。
《マグダラのマリア》という人物は、あの《ダ・ヴィンチ・コード》ですっかり有名になりました。
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小説の中で、マグダラのマリアはイエス・キリストの実質的な妻という設定!驚かされました!
小説という創造(想像?)の世界だから・・・、でも、イエスも人の子(?)、あっても不思議ではないという気もします。
もっと驚いたのはレオナルド・ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》の画面向かってイエスの左側の人物が女性で彼女こそが《マグダラのマリア》という奇想天外な発想。今まであまり注意してみたことはなかったけれど、そう言われてみれば、この人物は確かに女性に見えるかもと目から鱗?!。
ところで、私がダ・ヴィンチと言っていたら、最長老の講座参加者の方から、ある美術史学の泰斗の授業でダ・ヴィンチというのは「ヴィンチ村の」という意味で人物を特定する名前ではない、レオナルドと言いなさいと教えられたとのエピソードを伺いました。確かにそうですね。
この話で、私も大昔、大学院のギリシア・ローマ美術史の翻訳の授業でローマと言ったら、教授(この方もギリシア美術の碩学)から「ローマじゃないでしょ、ロマ!」とご指摘を受けたことを思い出しました。
閑話休題(この言葉、最近聞かない)、今回は、ティツィアーノが描いた4枚の《マグダラのマリア》を比較します。
この4点の作品から鑑賞者のみなさんが読み取ったことを要約すると:
1.やはり一番最初に描かれたパラティーナ美術館の作品にもっとも画家の自発性(画家のやる気)を感じる。
2.《マグダラのマリア》=娼婦と聖人という主題の持つ宗教性と裸婦像の官能性がマッチした自然な美しさが感じられる。
3.それまでの欲の世界で生きてきたが、キリストの前で悔悛し、サント・ボームの洞窟で衣服もなくなってしまうほどの長期間の修行にあけくれた禁欲的な聖人というイメージとのせめぎあいを感じさせるすばらしい表現力。
4.①のパラティーナの作品と②③④の作品とは20年以上の隔たりがある。①を描いた時の画家の抱いた感興はうすれ、絵を構成し仕上げる(完成させる)ことに主眼が置かれている。
5.その分、画面に衣服や香油壺、遠くの山並みなどの要素が増えて、画面が複雑な構成になっている。
6.①から④にいくにしたがって露出度が低くなっている。
7.《マグダラのマリア》のアトリビュート(主題を暗示するシンボル)である香油壺は①〜④に共通しているが、①には聖書がなく②③④には聖書がある。また、③と④には髑髏が追加されている。
《ナビゲーターからのひとこと》
1.最初の絵はマントヴァ公からの「このうえなく美しいが、同時にできるだけ涙にくれている」 《マグダラのマリア》の絵という注文によって制作された。
2.①は「美しくも涙ににくれているという」綜合しにくい主題にディツィアーノが出した答えとなる表現。
3.①のマリアは南仏サント・ボームの洞窟で服も纏わず、長く延びた豊かな髪で体を覆い、修行に明け暮れた様子。官能的な裸体を描くのに好都合。ただし、長年の苦しい修行を行ってなおかつ豊満で官能的な体を保持しているのは不可解と言えば言える。実際、ルネサンス初期の大彫刻家ドナテッロの《マグダラのマリア》は辛い苦行を経てやせ細ったマグダラのマリア像を制作しています。
4.ティツィアーノにおける《マグダラのマリア》の裸の露出度は対抗宗教改革の流れ(1534年のイエズス会の創設、1545年〜1563年のトリエント公会議の開催)に呼応している。
5.①では《マグダラのマリア》を示すアトリビュートは香油壺だけ。それが20年後以降の作品には聖書が足され、さらには髑髏まで足されている。やっぱり対抗宗教改革による世相の反映でしょうね。髑髏はよくヴァニタス(虚栄、はかなさ)の象徴と言われますが、この場合はやはりメメント・モリ(死を思いなさい)の意味合いが強いのか・・・
6.やっぱり①が最も自由で意欲的、「このうえなく美しく悲嘆にくれている」という難題への挑戦、ティツィアーノの筆の喜びが感じられます。
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