トマス・ホーヴィングと聞いてピンとくる人はかなりのアート通、美術館通です!
だいぶ前の話ですが、《ミイラにダンスを踊らせて》というメトロポリタン美術館の内幕を暴いた(?)本が話題になりました。ちょっと刺激的なタイトルもそうですが、著者がメトロポリタン美術館元館長ということでも注目されました。その本の著者がそう、トマス・ホーヴィング氏です。この本の帯には《美術館の運営もGMの運営もかわりはない!沈滞しきったメットをアメリカ最大の美術館に仕立て上げた元館長が語る興味つきない回想録。》とあります。
ちなみにメット(MET)はメトロポリタン美術館の愛称。ニューヨーク近代美術館をモマ(MoMA)と呼ぶのといっしょですね。
そのトマス・ホーヴィング氏が書いたのがこのアートミステリー小説《名画狩り》です。元メットの館長が書いた小説だからおかたいんだろうなと思いましたが、いやいやなかなか面白かったです!
魅力の第一はやはり、著者の経験がものを言っているというか、メトロポリタン美術館、ワシントン・ナショナル・ギャラリー、ロンドン・ナショナル・ギャラリーなどなど世界の一流美術館の館長だとかキュレーター、トラスティー(理事会)のメンバーの大富豪たち、オークショニア、怪しげな貴族のビッグコレクターなど登場人物がインターナショナルでバラエティに富んでいることです。
そして意外に楽しかったのが、頭脳明晰、タフネゴシエーターでおまけにセレブな主人公2人が世界をまたにかけて展開する恋愛ストーリー。まさにハーレクイン・ロマンの世界です。
アート・ミステリーとハーレクイン・ロマンの一粒で二度おいしい小説でした。
ちなみに、主題となっているのはベラスケスの名画なんですが、これがなんとロンドン・ナショナルギャラリー所蔵の《鏡のヴィーナス》・・・ではなくて、この絵の別ヴァージョンで正面向き、ということはもっと官能的な《侯爵令嬢》という架空の名画。
うーん、この絵の正面向きの絵があったらそれはやっぱり見たい気がしますね!
それでは、せっかくベラスケスが鏡を使って正面の顔も見せるという工夫の意味がなくなってしまいますが・・・
それにしても、私はこの小説を読むまでこの絵にさほど注目をしていなかったのですが、こうしてよく見ると女性の背中の表現がめちゃくちゃリアルですね!艶めかしいというか。
そう言えば、この絵は1914年に婦人参政権論者の過激女性活動家によって切りつけられたという災難にあっています。彼女いわく「男性客たちがこの絵に長い時間見とれているのが我慢ならなかった」。
ちなみにこの絵はイギリスやアメリカでは《鏡のヴィーナス》ではなくて、《ロックビーのヴィーナス》(The Rockeby Venus)と呼ばれているらしく、この小説の中でもそう呼ばれています。ロックビーというのはこの絵が飾られていたカントリー・ハウスの名前です。今後は《ロックビーのヴィーナス》と呼ぶことにしようかな。
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