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夏にちなんだ絵:放浪の天才画家・長谷川利行の《水泳場》板橋区立美術館

今日は夏にちなんだ絵をご紹介します。

この絵、一見何が描かれているのかわからないですよね!

作者は長谷川利行。「はせかわとしゆき」というのが正しい読み方のようですが、美術ファンの間では「ハセガワリコウ」と呼ばれています。

大正末から昭和前半にかけて活躍した、放浪の天才画家です。

放浪の天才画家と言うと聞こえはいいのですが、彼の愛好家の間では乞食画家とも呼ばれています。生涯定居を持たず、昼間は路上で風景を描き、夜は安酒で酔っぱらい、お金がなくなったら友人、知人間を渡り歩いて、絵を押し付けてはお金をせびるという行状を繰り返していました。

最後は荒川区三河島の路上で行き倒れになり、板橋区の養育院に収容されたものの、胃癌の手術を拒絶し半年後に亡くなるという壮絶な人生を送りました。享年49歳です。

この絵は1932年(昭和7年)、長谷川利行が41歳の時に描いた作品です。タイトルは《水泳場》。関東大震災からの復興事業の一つとして隅田公園内に作られた水泳場を描いたものだそうです。

最初は何がなんだか分からない絵ですが、よ〜く見ていると水辺で楽しむ様々な様子の人々が明瞭に見えてきます。

自由自在に動き回る筆のタッチからはワイワイガヤガヤという人々の楽しげなざわめきまで聞こえてきそうです。

長谷川利行 1891年(明治24年)- 1940年(昭和15年)
《水泳場》
1932年 油彩/カンヴァス 90.9 x 116.7 cm
板橋区立美術館

※この作品は長らく所在不明でしたが、2006年に兵庫県内で発見され、日本のアヴァンギャルド画家を収集方針としてきた板橋区立美術館が2017年に購入しました。

長谷川利行はいわゆる速筆画家の最右翼です。
だいたい1時間くらいで1点の油絵を完成させたようですが、この50号の大きな《水泳場》はさらにはやく30分で仕上げたとも言われています。

この早描きにより、長谷川利行の絵には独特の動きと揺れが感じられます。

事象の変化と時間の変化が画面に一瞬の早業で画面に定着されかけて、さらに動きを止めないといった風情の不思議な絵です。

長谷川利行はいつ絵を描きはじめたのか、誰に絵をならったのか、はっきりわかっていません。
若い頃は文学を志し、同人誌を発行したり歌集を出したりしています。

30歳で上京してからも大衆小説を書いたりしていましたが、32歳の時に第4回新光洋画展に《田端変電所》を出品し入選しています。
おそらく30歳くらいから絵を描き始めたんでしょうね。

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《日本洋画の俊英たち⑥》長谷川利行 〜 路傍で生きて、描いて、逝った 放浪の天才画家 〜

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この講座では長谷川利行の絵から伝わってくるこの不思議な感覚を楽しみながら、長谷川利行の絵について語り合いましょう。

せっかくですので、長谷川利行の忘れられない名作をもう1点ご紹介しておきます。


新宿風景 1937年(昭和12年)頃 油彩/カンヴァス 46.0 x 53.0cm  東京国立近代美術館

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