昨日のブログ《アートミステリー小説 私的ランキング 『マルセル』高樹のぶ子著》でロートレックの《マルセル》についてモデルとなったマルセル・ランデをご紹介しました。
ロートレックと言えば、もうすぐ三菱一号館で「1894 Visions ルドン、ロートレック展」が始まりますね!
「1894 Visions」ってなんだと思われる方も多いと思いますが(私もそのひとりでした!)、展覧会の告知によれば、「三菱一号館が竣工した年」であり、「ルドンが色彩の作品を初めて発表した年」であり(1944年生まれのルドンは50歳を過ぎるまで白黒の作品しか作らなかったのは有名です)、「ロートレック、ルドン、ゴーガンが参加した『レスタンプ・オリジナル』の刊行年(1893 – 95)とも重なります」とあって、さらに「同時代の日本では、フランスへ留学し、ルドンと同じ師のもとで学んだ山本芳翠が、代表作《浦島》を制作した時代でもありました」とあります。たたみかけますね!
1894年に着目するために、レスタンプ・オリジナルや山本芳翠まで出てくるのはちょっとこじつけな気がしないでもありませんが・・・まあ、多少マニアックということで理解しておきましょう!(ちなみにあえて言えば、《マルセル》も1894年の作品です!)
ところで「レスタンプ・オリジナル」ですが、パリで出版されたオリジナル版画集(創作版画集)の名前です。フランス語表記では《L’estampe originale》となります。エスタンプ(estampe)というのは本来《版画》という意味ですが、日本の美術業界用語では《複製版画》を意味するようになっています。《複製版画》というのは版画技法を用いて制作された複製画です。
エスタンプ・オリジナルに話を戻すと、私は展覧会プロデューサーとしてのキャリアの初期に、ロートレックの全ポスターを集めた《ポスター芸術の頂点 ロートレック展》という企画に従事したことがあります。アルビのトゥールーズ・ロートレック美術館と同館友の会の全面協力で成立した展覧会でしたが、この展覧会にはロートレックのポスター全種類とリトグラフの代表作が出展されました。
そのリトグラフ作品の中に、《エスタンプ・オリジナル誌の表紙》(1893年)という作品が2点ありました。1点はカラ―、もう1点は白黒です。
このカラー版が《エスタンプ・オリジナル》誌の創刊号の表紙となったわけですが、描かれているのは、アンクール工房のベテラン刷り師ペール・コテルと試し刷りを見ているジャンヌ・アヴリルです。
ペール・コテルはロートレックがリトグラフの技法習得についてアドバイスをもとめた人物としても有名です。ジャンヌ・アヴリルはロートレックと仲がよかったフレンチ・カンカンの人気ダンサーです。
ところで、ペール・コテルという名前について:実はペールはPèreで父親の意味ですから、「コテルおやじ」とか「コテルじいさん」という愛称です。
ゴッホの有名な《タンギー爺さん》という絵がありますが、フランス語では《Père Tanguy ペール・タンギー》です。タンギー爺さんはパリの画材屋ですが、ゴッホや売れない画家たちを援助したことで有名な人です。みんなからペール・タンギーと慕われていたんでしょうね。ペール・コテルも高い技術力を誇る石版職人で業界の有名人だったようです。
ジャンヌ・アヴリルの方はロートレックの絵にはよく出てくるのでご存知の方も多いと思います。彼女についてはまたあらためて書きたいとおもいますが、彼女をモデルにしたロートレックの有名なポスターを1点だけご紹介します。
正面左向きの黒いドレスの女性がジャンヌ・アヴリルですが、左奥で黒い手袋を交差させてて立っているのは有名な歌手イヴェット・ギルヴェールです。
イヴェット・ギルベールは、ロートレックにあまりにも醜く描かれるのに耐えられず仲違いしたことでも知られています。イヴェット・ギルベールの写真を見ると彼女の気持ちもわかる気がします。
ディヴァン・ジャポネ(Divan Japonais) というのはムーラン・ルージュと同じように有名なカフェ・コンセールです。ディヴァンは長椅子というか大きくゆったりしたソファーです。日本風(かつ中国風)のインテリアで人気がありました。いわゆるジャポニスム(日本趣味)が流行っていたんですね!
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