東京MXテレビの《アート・ステージ 画家たちの美の饗宴》は、今年で7年目にはいった、アート好きに大変人気のある番組です。前回9月12日の放送では、イギリス世紀末を代表するオーブリー・ビアズリーを取り上げていました。サブタイトルは『世紀末イギリスを魅了したモノクロームの背徳美』です。
また、ロンドンのテート・ブリテンでは過去50年で最大と言われるビアズリーの大展覧会《AUBREY BEARDSLEY》が開催されています(9月20日まで)
だいぶ前の話になりますが、私はこのビアズリーの展覧会を企画したことがあります。1998年に川崎市民ミュージアム、群馬県立近代美術館、和歌山県立近代美術館を巡回した《オーブリー・ビアズリー 世紀末の華》展です。
《オーブリー・ビアズリー 世紀末の華》展カタログの表紙
ビアズリー研究の権威テート・ギャラリー(現テート・ブリテン)のサイモン・ウイルソン氏と当時ビアズリーのカタログ・レゾネ(全作品掲載図録)を編纂中のリンダ・ザトリン博士をゲスト・キュレーターに迎え、鉄壁の布陣で臨むことができました。
ビアズリーは正規の美術教育を受けずに、弱冠21歳でオスカー・ワイルドの戯曲のために描いた挿絵で、一躍世紀末イギリスを代表する時代の寵児となりました。まさしく、異能、稀有の画家です。しかし、1898年、新しい世紀のはじまりを見ることなく、わずか25歳で亡くなってしまいます。多くの早逝の画家がそうですが、彼もまた結核に命を奪われたのです。
25歳で早逝したビアズリーの画家としての活動期間はわずかに3年ほどです。しかし、彼がこの短い期間に残した作品群は世紀末イギリス美術の中で燦然と輝く宝物です。
ビアズリーの絵画は基本的に『アーサー王の死』や『サロメ』などの書籍、『イエローブック』や『サヴォイ』などの雑誌のために白黒で描かれた挿絵です。しかし、その画面の絶妙な黒と白の対比、優美で繊細な線描が発するデカダン(退廃的)でモダンな美は、いわゆる油彩画(タブロー)の名作に比肩されるものです。たとえば、「サロメ」の主題の名作と言った時に、多くの人がビザズリーのサロメの中の《踊り手への褒美》をあげることでしょう。

サロメ 踊り手への褒美
この対話型鑑賞入門講座は2部構成です。
第1部ではVTS(Visual Thinking Strategies)の手法にのっとり、参加者の対話を通して、ビアズリーの代表作1点を様々な角度からじっくり鑑賞します。
第2部ではビアズリー生涯をご紹介しつつ、彼の作品をたくさん見ます。その上で、参加者のみなさんと印象に残った絵、気になる絵について、あれやこれやとおしゃべりします。
そして、弱冠20歳すぎの若き青年が、黒白の面と優美な線描だけで築き上げた「世紀末の美の世界」を堪能していただければと思います。

サロメ 孔雀の裳裾(もすそ)

《不機嫌の女神の洞窟》

アクロポリスを守るリューシストラテー
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